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2022年2月24日

『宮澤・レーン「スパイ冤罪」事件』箇条書き・総覧版発行

 2013年1月に札幌で結成した『北大生・宮澤弘幸「スパイ冤罪事件」の真相を広める会』は、10年目となりました。本会は、毎日新聞OBが北大OBらと協力し合って結成し、スパイの濡れ衣を着せられた北海道帝国大学学生・宮澤弘幸と、その師・レーン夫妻らの無実を証し名誉回復を期すると同時に、現に進行する旧・軍機保護法→現・特定秘密保護法などに伴う国民弾圧の国家権力犯罪を阻止する活動を展開してきました。

 こうした活動の経過と到達点を整理し、折から強まっている「憲法改悪・国民弾圧と戦争への道」へ警鐘を鳴らす目的で発行したものです。本会結成時から幹事として参加し、事務局体制に移行後も刊行書籍のすべての編集を担当してもらっている大住広人さんに全面的な協力をいただいています。「はじめに」から一部を引用し、紹介します。

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 近頃は、高齢層にもスマホが蔓延し、日々の生活で重宝がられている。当座知りたいことが指1本で右から左なんだから、毒されるなといっても無理かもしれない。便利と効率が絶対価値であるかのようにふるまい、国家権力はデジタル統治に突き進もうとはかっている。

 一番の毒は、新聞で培われた一覧性が絶滅しかけている弊かもしれない。既に、スマホの群れは己に関心ある事だけを追い、「いいね」組だけで共感し合い、その余には無関心、あるいは排除する弊があると批判されている。その批判に、貸す耳を持たないと嘆かれてもいる。

 それでもなお、の思いで『宮澤・レーン「スパイ冤罪」事件』を再編集したのが本冊子で、「総覧版」と銘打った。(略)対米英開戦と同時に揮われた一斉検挙から80年、事実上の獄死となった宮澤弘幸の没後から75年を経ている。過去を解き、未来を正す、その再認識の踏台としたい。

 2021年の通常国会では国民投票=改憲手続法、デジタル関連6法、土地利用規制法等々の悪法を成立させた。安倍政権下での特定秘密保護法、安全保障関連法、共謀罪法等々と併せ、戦争への道となる法体制をなし崩しに固め、強権体制を定着させようとしている。

 あげく、2021年10月の総選挙では、自民・公明が国会運営での絶対安定多数を確保し、更には補完勢力となる党派が議席を増やした。目先の利便維持に執着する政治的無関心層に支えられての現象だ、との解説は当を得ているが、解説するだけでは遠吠えになる。

 奇手はない。議論の場を広げ、議論の多様さを知り、折合いの知恵を磨き合う、戦後培った風土を再確認し、愚直に努める。それにはスマホの対極である一覧性、その総体である総覧性が力になる。新聞をぱらぱら捲るだけで、世情を俯瞰し鳥の目を肥やすことができる。(略)

 本件冤罪は、上田誠吉・弁護士が国家権力による冤罪の具体例として発掘、1980年代の「スパイ防止法阻止」運動の中で深化した。その成果を引き継いだ本会が、安倍政権下で再燃した「秘密法制」阻止運動の中で発展させ、『引き裂かれた青春―戦争と国家秘密』(花伝社刊)として結実、集大成した。

 以来、さらに真相解明に努め(略)、今回冊子は、これら再度の集大成をと、一覧性・総覧性を意識し、めりはりある構成を心がけた。箇条書きとした所以である。(略)併せて本会既刊中の要訂正を「既刊訂正」として収録した。巻末の論考「土地利用規制法」は戦争法廃棄にむけた喫緊の課題への本会の考え方を明らかにするものとして、既刊寄稿の中から再録した。

 国民弾圧の仮面法「土地利用規制法」は2022年秋とされる施行まで、なお、間がある。施行を阻止し、一連の戦争法破棄に向け、さらなる連帯を強めたい。小さな冊子ながら、逆に、その手軽さを生かし、運動の現場で活用願えれば望外の成果となる。祈念して止まない。

 本会は、2016年に事務局体制を新たにし、現在に至っています。今回発行の「総覧版」全文と活動の現状は、下記のホームページで公開していますので、ご覧ください。

http://miyazawa-lane.com/index.html

(福島 清)

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宮沢弘幸さん一家の墓参りをする山野井泰史さん(手前)と孝有さん(左から3人目)ら=東京都新宿区の常円寺で2022年2月22日午後1時15分、青島顕撮影

 関連して、宮澤さんの墓参りの記事が22日に配信されましたので、転載します(24日付都内版に掲載)。

戦時下弾圧、非命に倒れた北大生 登山家・山野井泰史さんが墓参り

 戦時中にスパイ事件に巻き込まれ、27歳で亡くなった元北海道帝国大生、宮沢弘幸さんの没後75年にあたる22日、登山家の山野井泰史さん(56)一家が、東京都新宿区西新宿の常円寺にある宮沢家の墓参りをした。一家と宮沢家とのつながりは37年前、山が取り持った。

 1985年夏、20歳の山野井さんは岩登りの聖地、米コロラド州ボルダーで落石に遭い、左足を粉砕骨折した。現地の病院でボランティアをしていたのが宮沢さんの妹、秋間美江子さんだった。山野井さんは家で世話になり、秋間さんから「兄は山が好きだった」と登山用ザックを見せられたという。

 話に出た兄の宮沢弘幸さんは41年12月の日米開戦の日、スパイを取り締まる軍機保護法違反で逮捕され、懲役15年の判決を受けた。戦後、同法の廃止と同時に釈放されたが、47年に結核で亡くなった。後に判明した罪とされた事実は、北大予科の英語講師レーン夫妻に旅行中に見聞きした海軍の根室飛行場の場所などを教えたこととされた。だが、飛行場の場所は周知で、いわれのない罪との評価が定着している。

 しかし一家は、世間から「スパイの家族」のレッテルを貼られ、戦後も苦しんだ。結婚した秋間さんは夫の仕事で米国に移住した。戦後40年が過ぎたころから兄の無実の罪を晴らすため、来日して活動するようになり、2020年10月に93歳で亡くなるまで続けた。  秋間さんが来日のたび泊まったのが千葉市の山野井さんの実家だった。山野井さんの父孝有(たかゆき)さんは事件を知り、美江子さんを支援し続けた。

 墓参後、山野井さんは「お兄さんのことがあったから秋間さんは厳しく最後までたたかったのだろう」。この日が90歳の誕生日の孝有さんも「二度とこんな思いをする人が出ないようがんばって生きていきたい」と語った。

 山野井さんは1994年にヒマラヤのチョーオユーで南西壁から新ルートで単独初登頂。昨年「登山界のアカデミー賞」と称される、フランスの「ピオレドール(金のピッケル)」賞の生涯功労賞に選ばれた。【青島顕】

https://mainichi.jp/articles/20220222/k00/00m/040/131000c