2020年11月30日
宇宙・地球・人力発電―新しい時代の創造者を目指して 元社会部、茂木和行さんの新世界

「人力」を究極の自然エネルギーと位置付け、人力発電とアートを結び付ける「発電アート」を展開することによって、持続可能で循環型社会の実現を目指すNPO法人人力エネルギー研究所を設立して3年目になる。毎日新聞の企業理念として「生命をはぐくむ地球を大切にし」「生き生きとした活動を通じて時代の創造に貢献する」ことがあげられている。社会部の警視庁担当記者として、地球環境問題よりも、特ダネ取りに熱中し、ロッキード事件などの現場を渡り歩いていた私が、いまになって毎日の理念に重なる活動をしていることに、不思議な因縁を感じている。
足踏みで発電する「発電床©」を使ったコンサート・オペラ「ドン・ジョヴァンニ」(河口湖円形ホール)、富士河口湖役場前で行った足こぎ発電でSL「まてき号」を走らせた人力発電遊園地、と、次第に規模を大きくし、この4月12日には「発電アート」の集大成であるサステナブル・オペラ「魔笛@人力発電遊園地」を河口湖ステラシアターで上演することになっていた。
ご多聞に漏れず、新型コロナウイルスの感染拡大のために舞台稽古を1回しただけで公演は中止。来年4月25日に三鷹市公会堂光のホールでの再チャレンジが決定したものの、中止にともなう経済的損失がかなりな額に上り、東京公演では河口湖公演で予定していたSLレールの設置や富士山を模した電飾は断念し、足こぎ発電エアロバイク1台を設置する次のようなストーリーに転換することにしている。
昼の王国ザラストロは、太陽光、風力、水力で電力を賄うスマート・シティ。夜の女王は、魔法の足こぎ発電エアロバイクで電気を賄っている夜の国の支配者。愛と友情を信じる者が魔笛を吹きエアロバイクと 呼応すると、世界を明るく照らす「光の輪」が起動する。
夜の女王の国は、かつてこの「光の輪」によって明るく輝く世界だったが、女王の夫が亡くなった時に、親友のザラストロに「光の輪」を預けたことから、女王の国は鳥刺しパパゲーノがこぐ足こぎ発電エアロバイクだけで電気を賄う夜の世界になってしまった。「光の輪」を持ちながら魔笛を欠いているザラストロの王国も、陽がささず、風もなく、水が凍ってしまう冬の季節には、エネルギーの枯渇に悩んでいる。
夜の国に迷い込んだ王子タミーノは、ザラストロの王国に幽閉されている夜の女王の娘パミーナを救って欲しいと女王に頼まれ、魔笛を預けられる。女王の真の狙いは、「光の輪」を取り戻し、夜の国を再びエネルギーに満ちた明るい世界に戻すことだった。タミーノは、愛するパミーナとともに魔笛を吹き、足こぎバイクをこぐパパゲーノの友情の力を借りて、見事「光の輪」を復活させることに成功、パミーナとめでたく結ばれることになる。
魔法の鈴の力で娘に戻ったパパゲーナとパパゲーノも結ばれ、大団円に。「宇宙の神よ、愛と友情の力が世界に光を取り戻させたのだ。愛と友情、そして平和への祈りをあなたに捧げる」と、夜の女王も再登場して、全員の合唱でフィナーレとなる。


11月に入って、思いもかけず文化庁の「文化芸術活動の継続支援事業」交付金を頂戴することになり、11月27日に木場のスタジオで、魔笛公演用の衣装を使って、ファッションショーを行い、魔笛公演用のPR動画作成にあたった。辣腕演出家で知られる岸聖展氏にお願いしたこのファッションショーは、添付写真でご覧いただけるように、出演陣全員が黒マスク姿でコロナ・ウイルスを威嚇する、なかなかのシュールに仕上がっている(写真:嶋谷真理)。
魔笛に登場予定の宇宙人アオヒト=国際的なアーティスト・パフォーマーの関根かんじさん=も先行出演し、足こぎ発電エアロバイクをこいでくれている。
世界はいまや宇宙への進出競争の時代に入っている。その背景に、地球という惑星がエネルギー資源においても、居住空間としても、増殖する人類をもはや支えきれないとの危機感があることは言うまでもない。だが、宇宙進出によって食料や水、エネルギーを獲得する道が開けたとしても、加速する人類の進出はいつか宇宙のエネルギーそのものを食い荒らし、地球環境問題は宇宙環境問題へと拡大していくのではないだろうか。
そんな想いから、時空を超えて高天原に降り立った宇宙人が、人力発電の力で地球だけでなく宇宙全体の環境危機を救う未来劇「アマテラスと魔法の足こぎ発電エアロバイク」を、魔笛外伝として制作する準備も進めている。
はるか昔、銀河系内の地球から移住した人間種族のために、光を失い、枯死寸前に追い込まれている「あおいろ星」人は、地球人の秘密を探るために、一人の若者アオヒトを地球に送り込む。高天原の天岩戸にタイムスリップしたアオヒトは、使われないままに放置されていた「足こぎ発電エアロバイク」に出会う。それは、宇宙の気を集め、ごみをクリーンなエネルギーに変える力を持つ魔法のマシンだった。
アメノウズメとともにこの魔法のマシンによって天岩戸をクリーンな青い光で満たし、アマテラスを天岩戸から連れ出すことに成功したアオヒトは、アマテラスを連れて宇宙へと旅立ち、地球人に汚された宇宙を元のきれいな宇宙へと戻してゆく。
宇宙的視野で「古事記」の世界をも見せる私どもの未来劇は、日本文化の深淵を垣間見せることによって、新しいジャポニズムのうねりを世界へと発信すると信じている。
折も折り、新型コロナ・ウイルス感染拡大の「巣ごもり」日常で、行動範囲が自宅周辺への散歩、ランニング、自転車によるツーリング、に変わった結果、身の回りに実に多くの神社、鷺宮八幡神社、阿佐ヶ谷神明宮、本天沼稲荷神社、猿田彦神社…が存在することを知った。

JR荻窪駅近くの「天沼八幡神社」(杉並区天沼=写真左)に置かれていた「天沼八幡神社報」の中面3頁に、「日本書記1300年」の文字を見つけ、2020年が、『日本書記』誕生(養老4年=720年)1300年の記念すべき年であることに恥ずかしながら気づいた。その8年前の712年(和銅5年)には『古事記』が誕生している。
「戦後75年間、日本は二千年以上続く皇統と伝統文化を持つ地球上でも稀有な国であることを学校で教わらなくなりました」と、天沼八幡神社報は嘆き、平成十年(1998年)IBBY(国際児童図書評議会)ニューデリー大会で行った上皇后陛下の基調講演でのお言葉を紹介している。
「一国の神話や伝説は、正確な史実ではないかもしれませんが、不思議とその民族を象徴しています。これに民話の世界を加えると、それぞれの国や地域の人々が、どのような自然観や死生観を持っていたか、何を尊び、何を恐れたか、どのような想像力を持っていたか等が、うっすらとですが感じられます」
記紀神話に無知・無関心だけでなく、この「お言葉」に返す言葉がない我が身がなんとも情けない。日本書記誕生1300年にあたるこの機に、日本人の精神構造に深く根を下ろしているアマテラスの存在を世に問うことは、コロナ・自然災害など人類存亡の危機が露呈するこの時代に、明るい希望の光を取り戻すことにつながる、のではないか、の思いを強くしている。
機を同じくして、未来劇「アマテラスと魔法の足こぎ発電エアロバイク」の演出もお願いする予定の岸氏から「日本全国のアマテラス神社を結ぶ道(トレイル)を構築し、太古の英知によって高密度社会がもたらしたコロナ禍の時代を乗り切る処方箋を提示するGo toトラベル・キャンペーン:アマテラス・トレイルを企画して、毎日新聞社に旗振り役をお願いしたらどうか」との提案が出されたのは心強い。岸氏は「日本人は古代から人の力の源である大地と語り合ってきた。アマテラス・トレイルとして再発見される大地の結びつきは、点と点を繋ぐ聖座(星座)を形作り、コロナ禍で消沈した社会に再び明るい未来を取り戻す力となるのではないか」と尻を押してくれている。
毎日新聞の長期連載企画「宗教を現代に問う」が、1976年の新聞協会賞を受賞したことは記憶に新しい。そのパート2として、「神道を現代に問う」といった形で、アマテラスに始まる天皇の歴史を含めた「神道と日本人」の連載を始めてみてはどうだろうか、と思い始めている。日本人の心の原点を探り、私たち日本人の文化の深層を明らかにしていくことは、「時代の創造者」である毎日新聞にふさわしい企画になる気がする。
アマテラスの道を、フランス南部からスペイン国境までの1500kmを結ぶ「サンティアゴ巡礼」や「歩く瞑想」として知られる「ラビリンス・ウオーク」などとつないでゆけば、「祈り」の輪によって世界が一つになってゆく、素晴らしい試みになるのではないだろうか。
昔取った杵柄で、アマテラス・トレイルの同行取材などやってみたいと、「面白がり屋」の記者魂が復活するのを感じ、ワクワク感が否めない。流行語になった「お・も・て・な・し」に変わって「ア・マ・テ・ラ・ス」が、時代の先頭に立つようなことができれば、記者生活最後の残照を「時代の創造者」の一人として終えることが出来るかもしれない。そうなれば、何という幸せだろうか。
ちなみに、東京都の芸術活動助成金プロジェクト「アートにエールを!」に、魔笛公演を題材とした以下の映像作品2点も採用され、ユーチューブ上で公開されている。
〇サステナブル・オペラ「魔笛@人力発電遊園地」
https://www.youtube.com/watch?v=ydrPDLMAfMA&t=270s
〇パパゲーノの冒険「持続可能な愛と平和を求めて」
https://www.youtube.com/watch?v=IIZkH4P4krY
ご覧いただければ幸いである。
※茂木和行さんは1970年、東大理学部天文学科卒、毎日新聞社入社。水戸支局を皮切りに社会部記者、サンデー毎日記者。1986年 退社。ニューズウイーク日本版副編集長、フィガロ・ジャポン編集長、生命誌研究館サイエンス・キュレーター、聖徳大学教授を経て 現在 NPO法人人力エネルギー研究所理事長。