元気で〜す

2020年11月27日

タウン誌、地域FM、「47NEWS」の「三つのわらじ」── 新しいメディアで歩む元政治部副部長、尾中香尚里さん

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 昨年9月に早期退職し、毎友会に加えていただきました。どうぞよろしくお願いします。

 昨年春に夫の仕事の都合で神奈川県藤沢市に転居し、遠距離通勤となったことなどを機に、次の人生を考え始めました。地域面の仕事の経験から、毎日新聞を含む新聞各社が(経営戦略上仕方ないとはいえ)地域報道を縮小していくのを寂しく思っていたので、卒業後は地域のタウン誌かコミュニティーFMで、地域情報の発信にかかわりたいと思っていました。

 「新たな地元」となった藤沢市のタウン誌「ふじさわびと」の門を叩きました。地元の駅や行政機関などに置かれているフリーペーパーですが、デザインも編集も無料とは思えない質の高さに感動しました。調べると日本タウン誌・フリーペーパー大賞(現日本地域情報コンテンツ大賞)を受賞した経歴もあるとのこと。地元タウン誌で長く編集長を務め、定年後に起業し1人でタウン誌を立ち上げたパワフルな女性編集長の生き方にも、強くひかれるものがありました。

 編集スタッフとしての参加が決まり、退職を決断。それをSNSで公表したところ、その日のうちに高校時代の友人から電話がかかってきました。歌手をしているその友人は、間もなく東京都狛江市に開局するコミュニティーFM「コマラジ」(85.7MHz)で、週1回お昼の情報番組のパーソナリティーを務めることになっており、その番組の制作にかかわってほしいというのです。

 あれよあれよという間に、私はこの友人とともに、毎週月曜正午から2時間の生番組に出演することになってしまいました。番組名は「アフタヌーンナビ Good Day Monday」。狛江市以外でもスマホアプリ「リスラジ」を使えばインターネット経由で聞くことができるので、よろしかったら聞いてみてください。

 番組では「最近の気になるニュースについて友人とおしゃべりする」というコーナーのほか、多くのゲストさんをお招きしています。ゲストさんはミュージシャンの方が多く、在職中にはお会いできなかったようなジャンルの方々と話すことができ、非常に刺激を受けています。また、放送でかける曲の一部を、自分で選曲できるのも魅力です。音楽でキャリアを積んだわけではないのにこんな仕事を任せていただき、本当に感謝の一言です。

 これで卒業後の新しい活動が固まったと思いきや、退職直後にさらなる仕事が降ってきました。共同通信社のウェブサイト「47NEWS」で、ネット向けの政治記事を書いてみないか、と誘われました。

 実は政治報道にかかわることは、退職後の仕事としてはさほど考えていませんでした。現役時代にどっぷりと仕事したので、退職後は少し局面を変えたかった。でも一方で、長く取材を続けてきた野党陣営の行方をもう少し見届けたい思いもあり、迷いましたがお引き受けしました。その途端に発覚したのが、ご存じ「桜を見る会」問題、そして新型コロナウイルスの感染拡大でした。

 気楽に野党関係の記事を書くつもりが、気がつけばこの間の安倍政権、続く現在の菅義偉政権のコロナ対応について、立て続けに論評記事を出すようになっていました。

 私は2011年、菅(かん)直人政権時の東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の際に政治部デスクを務めていました。取材先の多くが閣内にいたこともあり、一記者としてあの「国難」に対峙した政権の苦闘を間近に見てきました。当時の政権もひどく批判されましたが、コロナ禍という新たな「国難」に対峙する政権の無責任さを見過ごせなかったのです。

 いざ書いてみると、予想外に多くの方に読んでいただけているようで、正直戸惑いました。現役時代に新聞記事を読んでくださっていた層とは、明らかに異なるようでした。国民の政治不信が広がるなか、こうした記事にはほとんど需要がないと思っていただけに、これは驚きでした。そして反応のなかに、毎回いくつも同じような言葉があるのに気づきました。

 「今まで自分の中でもやもやしていたことを言葉にしてくれた」「もやもやが可視化された」

 なるほど、と思いました。

 会社を離れた(そしてほかの仕事もある)今、日常的に永田町を歩いて生の取材をしているわけではありません。書くのは国会審議など表に出ている事象の解説が主体。記者時代を振り返れば「こんなことでいいのか」と思うこともあります。

 でも、いいかどうかは別として、読者の皆さんは今、一次情報や調査報道によるスクープだけでなく、複雑な社会のなかで感じている「もやもや」を整理し、言語化してもらいたいのではないか。そういう方向で、私の仕事にも少しは意味があるかもしれない。そう感じたのです。

 そんなわけで今日も「三つのわらじ」で、地元・藤沢から狛江、国会まで出没しています。コロナ禍で行動は思うに任せませんが、「自分の足で歩いている」実感があります。さらなる精進を続けつつ、さまざまなトラブルも楽しみながら、新たな人生を歩んでいきたいと思います。

※尾中香尚里(おなか・かおり)さんは福岡県出身。早稲田大学第一文学部卒業後、1988年入社。初任地は千葉支局。主に政治部で野党や国会を中心に取材。政治部・生活報道部副部長、川崎支局長、オピニオングループ編集委員などを務め、2019年に退社。共著に「枝野幸男の真価」(毎日新聞出版)。