元気で〜す

2020年11月26日

司会と編集長 海外日系人協会を手伝ってます ―― 元外信部長、中井良則さん

 「司会」といえばいいものを「モデレーター」なんてカタカナで呼ぶようになったのは、いつからでしょう。聞きなれないカタカナ語にすれば、何やら高級そうに錯覚するからか。そんなことを気にしながらも「モデレーター」を務める羽目になりました。

◆海外日系人大会中止でオンライン会議◆

 毎年、世界各国から日系人の代表が200人前後東京に集まります。新聞もテレビもあまり記事にしませんが、自分の出自をジャパニーズと認識している人々にとっては、結構、大きな国際会議です。日系人人口はブラジルで190万人、米国で150万人を数え、世界では390万人といわれます。この「海外日系人大会」を主催する海外日系人協会という公益財団法人があり、この数年、常務理事としてボランティアで手伝っております。記者時代、中南米や米国で日系人に会い、記事も書きました。

 2020年は新型コロナウイルスで外国のお客さんは呼べません。国際会議は軒並み中止でした。61回目となるはずだった海外日系人大会も見送りとなったのはやむをえません。

 「でも、対面の会議に代わるなにかをやらないと」「なにか、ってなんだ」「だから、なにだよ、なんだろね」なんてやりとりはなかったけれど、オンライン・フォーラムなるものを開こうという話になりました。またカタカナ語です。要は、「日系人のメッセージや会議をビデオ録画し、YouTubeで公開しよう。世界どこでも、いつでも見てもらえるし」というわけです。

 10月31日にYouTubeにアップしました。お時間があれば、海外日系人協会のホームページから、簡単にアクセスできるので、ご覧ください。
http://www.jadesas.or.jp/

◆日系人の記憶が危機を乗り切る支えに◆

 15か国の日系社会の代表17人からビデオメッセージが送られてきました。これもまた日本ではあまり報道されないけれど、コロナ・パンデミックで、どこの日系人団体も施設閉鎖や活動中止に追い込まれました。収入激減で、かつてない危機にあります。そんな窮状と、それでも立ち上がって踏ん張っている現状をみなさん報告してくれました。

 追いつめられると人間、自分は何者かと問い直すのですね。

 「第2次大戦の日系アメリカ人二世部隊の勇気を思い出します」「この地に渡ってきた父祖が示した忍耐力に励まされています」「ガンバレ・スピリットです」

 日系人としてのアイデンティティや歴史の記憶が受け継がれ、コロナの時代を乗り越える支えになっているようです。

◆貸しスタジオ見つけてビデオ収録◆

 で、ようやく書き出しに戻って、モデレーターの話です。このオンライン・フォーラムの中で、ミニ会議というかパネルディスカッション(またカタカナだ)をやり、その司会役が回ってきたという次第です。

 これまでも日系人大会で何回か司会を務めたことがあります。今回は参加者3人ずつの討論会を二つ続けて担当するわけです。この質問をこちらの人に振り、このテーマはあちらに聞いて、とコンテを準備しました。

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パネルディスカッションの司会を務める筆者(左)。アクリル板で新型コロナウイルス対策も

 打ち合わせはZoomで済まし、さて本番はどこでやろうか。

 海外日系人協会の会議室ならおカネはかからないけれど、ビデオの撮影や録音がうまくいくか、ちょっと心配でした。素人がカメラやマイクを使うと、画像が揺れたり声が聞き取れなくて大失敗、という惨事はよくあります。事務局の人が、川崎駅前の貸しスタジオを見つけてくれました。カメラ3台が自動で切り替わり、マイクもプロ仕様で音質の保証つき。こういう場所貸しビジネスがあるとは知りませんでした。

 収録で気をつけたのは時間管理。オンラインで人の話を延々と聞くのは疲れるものです。40分以内でセッションを終わらせるようにしました。

◆コロナ対策、機械翻訳じゃわからない◆

 モデレーター、いや議論の出来栄えはYouTubeをのぞいてもらうとして、とりあげたテーマの一つが日本で働き、生活する日系人コミュニティです。日本には30万人を超える日系人がいて、これは日系人人口としてブラジル、米国に次ぐ世界第3位です。あまり知られていません。何度もいうけど、新聞も書いてない。

 コロナになって雇い止めやしわ寄せが各地の日系人を苦しめています。困るのは役所のコロナ対策のお知らせがポルトガル語やスペイン語、英語にはなっているけれど、意味不明なこと。グーグルなどの機械翻訳に任せ、ネイティブがチェックしないまま公開するので、わけがわからないんだそうです。そんな驚くべき現状が次から次へ出てきた議論でした。またもいうけど、後輩の記者諸君、取材して書いてよ。

◆「海外日系人大会60回の歩み」も出版◆

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「海外日系人大会60回の歩み」

 海外日系人協会の仕事は、毎日新聞の大先輩、新実慎八さんからいわれて、やっています。この1年ほどは「海外日系人大会60回の歩み」という日系人の歴史をまとめた本の編集長を仰せつかり、かなり真面目に取り組みました。A4版391ページ、重量1,051グラム。11月1日に発行できました。半分以上のページは資料編に充て、60回におよぶ大会の宣言など文書の全文を掲載しました。次の世代に引き継ぐ記録は、原文のままでないと役に立ちません。この本もPDF版を海外日系人協会のホームページで無料公開しています。

※中井良則さんは1975年入社。振り出しは横浜支局。社会部(サツ回り、警視庁、遊軍)を経て外信部。ロンドン、メキシコ市、ニューヨーク、ワシントンの特派員。イラク戦争の時は外信部長。2009年、論説副委員長で退社。公益社団法人日本記者クラブで事務局長・専務理事を務め、2017年退職。