元気で〜す

2020年7月6日

銀座、新橋、柳橋……「忙中閑」の鉛筆画伯が行く

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 退屈なはずのコロナ自粛の生活を、楽しいものにしてくれたのは、スケッチだった。

 本格的に描きだしたのは7年前、5歳の孫娘とお絵描きをしていたとき、「おじいちゃん、上手ね」と褒められたのがきっかけだった。「子供は褒めて育てる」は逆も真なりのようである。

 運動部のプロ野球担当だった頃には、春のキャンプ地にスケッチブックを持ち込んでいたから、好きではあった。暇になって、灰の中の埋み火を掻き熾したようにやる気が燃えてきた。

 30年以上のスケッチブックが捨てずにあった。それを7年前「忙中閑画 1」にまとめ、昨年に2巻目=写真=を出した。気にいったものが描けたら時折、生存確認の手紙代わりにフェイスブックにアップしている。

 誰に習ったこともない僕の絵は、下手の横好きそのもの。デッサンは勉強不足だから静物画、人物画は苦手。もっぱら風景画を描く。古い町角風景は特に好き。

 隅田川につながる水路で、柳橋、萬年橋、清洲橋、吾妻橋など沢山の橋も描いた。裏町の飲み屋街の夜景も描いた。

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銀座4丁目の和光
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川越市・時の鐘通り

 一番難しかったのは銀座4丁目の角、和光の建物。考えてみていただきたい。あの建物は交差点の直角に対して、ゆったりとした曲線の壁面に仕上がっている。縦は直線、横は曲線で交わるから難しい。無数の窓枠は曲線に沿って変化するから難しい。さらに無数のデコレーションがくっ付いているから難しい。しかし、それだからこそ4丁目に君臨する存在感があるのだろう。

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酒田市・山居倉庫街
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新橋の焼き鳥「ささ亭」

 「毎日夫人」の長期連載だった「あなたと歩きたい街」のスケッチが好きで、寺田みのる画伯のタッチを目標にしてきた。寺田さんの特徴は旅先などで、短い時間で、さらさらと仕上げる風景画。早く描くから鉛筆のタッチはあくまでも軽く、軟らかい。緻密とか、精密とかの対極にあるスケッチゆえに、絵描き仲間の間では「早描きのみのるちゃん」と呼ばれているとか。

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雨の新橋烏森神社参道

 いいじゃないの、早書き宿命の新聞記者の目指す画伯としてはぴったりじゃ。 

 やってみると1本の線が難しい。軽妙を真似ると、ただの乱雑に終わる。軟らかさを真似ても、余分な力が抜けない。線は個性で、真似ができないものらしい。

 しかし、絵はうれしい。下手は下手なりに楽しめる。僕のスケッチは「ほのぼのとしているね」としか褒めようがないらしい。それは線のタッチが頼りないからだろう。

                      

 線は生きてきた道のようなもの。自分の個性。仕方がない。頼りなくも、曲がりなりにも、真っ直ぐに生きてきたつもり。たった1枚の絵で、そんな人生や個性が見られてしまうようだ。怖いことだが、絵は楽しい。

(渡部 節郎)