元気で〜す

2018年12月3日

プロ野球のリプレー検証は、審判への冒涜である――諸岡達一

 毎日新聞社の編集委員室発祥の「野球文化學會」。その第2回研究大会が12月1日(土)午前10時半から東京新宿区の法政大学市ヶ谷キャンパス田町校舎(T 511教室)で開かれた。

 テーマは「野球と審判-その不可欠な存在と将来像-」。

 その目的は「野球文化の中核の一つともいうべき審判(アンパイア)及びその判定の在り方を取り上げ、 野球文化の更なる発展を企図すること」。

 基調講演は、元プロ野球審判員 で現在NPB(日本野球機構)審判技術員の 山崎夏生さん(63歳)。2010年、55歳定年で引退したが、1984年の初ジャッジから試合出場数は1451。自慢?は、ロッテ監督の金田正一をはじめ「退場!」を言い渡したのが17回。日本最多である。

 『プロ野球審判ジャッジの舞台裏』(北海道新聞社 2012年刊)の著書もある。

 「プレーボール」と高らかに宣言して始まった講演は、大変興味深かった。北海道大学文学部国文科を卒業して、日刊スポーツ新聞社に就職した。大学では野球部で投手をしていたが、ケガで4年生のシーズンを棒に振ったという。プロ野球の審判という職業を知って、2年余で新聞社を退社。なんとかパ・リーグと審判契約を結んだ。年俸は160万円だった。

 ことしから始まったリクエスト制度。今シーズン計858試合で、リクエストの要求でビデオ判定したのが494回。その結果、判定が覆ったのは162回、32.8%だった。

 一番の問題は、審判のジャッジが「仮判定」になってしまったことだ。野球規則には、打球がフェアかファウルか、投球がストライクかボールか、走者がアウトかセーフかの裁定は「審判員の判断に基づく裁定は最終のものである」と決められていた。従ってプレーヤーや監督も「その裁定に対して、異議を唱えることは許されない」とあった。

 リクエスト制度に痛烈な批判をして、予定の50分の最後に「退場!」と叫んで、講演を終えた。

 パネルディスカッションでは、東京プロ野球記者OBクラブ会長の菅谷齋さん(共同通信編集委員)が「長嶋ボール」「王ボール」「稲尾ストライク」があったことを証言。ビデオ判定・AI(人口頭脳)が将来「審判は不要なプロ野球」への道を進んでいる、と断言した。

 野球文化學會の鈴村祐輔会長(法政大学客員学術研究員)は、米大リーグのビデオ判定、チャレンジ制度について現状を話したが、2018年シーズン、チャレンジは1442件あって、そのうち判定が覆ったのは698件、48.4%だったこと、審判が判定を誤る割合は全体の14.4%とも明らかにされた。

 鈴村さんは、最後に「最新のIT技術を活用し、審判の判定を補正することも重要である」とまとめた。

 フロアーからトップバッターで発言したのが、この学会生みの親の諸岡達一さん(82歳)。元毎日新聞整理本部のカリスマ、レジェンドであることはご存知ですよね。

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 マイク不要のでかい声で曰く「野球の審判の判断がゼッタイであって、ビデオ判定導入には断固反対です。審判が<アウト>と言えば、どんな場面であっても<アウト>なのです。たとへ誤審があったとしても誤審こそ“野球のうち”なのです。ルールブックにない試合中の全ての出来事に対して審判は絶対的権能を持っています。原本は<Each umpire has authority……>。リクエストだかチャレンジだか知りませんがあんな馬鹿げたことで試合が中断するなんぞはもってのほか、審判の権威が損なわれ、堕落のはじまりです!」。

 野球のドラマは、誤審とともにあったともいえる。「オレがルールブックだ」は二出川延明主審。「あー円城寺 あれがボールか 秋の空」といったザレ歌も生まれた。リクエストが当たり前になって、今シーズン「退場!」はたった3人。それも選手ばかりで、監督は1人もいなかった。

 監督の抗議と「退場!」と叫ぶ主審。あのドラマは、もう見られない。

 いつまでも野球を愛し、元気いっぱいの諸さんであった。

(堤  哲)