2025年11月14日
仲代達矢さんが亡くなって高橋豊さんを想う


高橋豊著『幻を追って―仲代達矢の役者半世紀』が毎日新聞社から出版されたのは、1998年3月だった。その出版記念パーティーには、仲代さんもお見えになり、随分長く、中締め迄会場におられた記憶がある。
生成A Iに尋ねると、以下の答えが返ってきた。
《高橋豊は演劇評論家であり、元毎日新聞社の専門編集委員として、長年にわたり現代演劇やミュージカルなどの分野を取材していました。その取材活動の中で、仲代達矢の俳優としての半世紀にわたるキャリアに焦点を当てた記事を執筆し、それが後に単行本としてまとめられました》
《高橋豊は2023年4月8日に78歳で亡くなりましたが、彼の著書は仲代達矢の役者人生を知る上で重要な文献の一つとなっています》
この毎友会HPの追悼録では、「余録」の筆者だった奥武則さんがこう書いている。
《「わしゃ、ナンパ書きですけん」と山形出身の豊さんが、わざと九州弁ふうにポロッと言ったことがある。演劇記者としての活躍はよく知られているだろうが、ふざけて言ったような、この言葉には、豊さんの密かな矜持が込められていたように思う》

《俳優の渥美清さんが亡くなったときも、すらすらと社会面トップの受け記事をものにした。
いつものように、「寅さん」はプイと去った。
こう書き出されたこの日の記事は、ナンパ書き・高橋豊記者の一つの見事な作品として、私の心に残っている》
仲代達矢さん(11月8日逝去、92歳)は文化勲章受章者である。新聞各紙は「評伝」を載せ、その功績を讃えた。
「人間の条件」「用心棒」「天国と地獄」。ギョロリとむいた目が印象的だった。「無名塾」の舞台も何度か見に行った。
毎日新聞社会面は日本記者クラブでの講演の模様を書いている。
《終戦は13歳になる年。「戦中はもちろん配線の日本を生き抜くことは、まさに命がけの毎日でした。すべてが焼け焦げ、がれきと死体の街を疑心暗鬼の庶民がさまよう。そんな世界が私の幼児期でした》
仲代さんの映画で、一番印象に残っているのは1957年公開の小林正樹監督「黒い河」である。主演が有馬稲子。高校1年生だった私は、ネコちゃんファンだったのか。
仲代さんはチンピラ役で、見開いた目がギンギラに光っていた。ネコちゃんの頬を平手打ちする場面があった。そこだけが印象に残っている。
高橋豊の出版記念パーティーで、その場面のことを尋ねた。
「脚本に平手打ちとあったので、思い切って殴りましたよ。そうしたら主演女優を傷つけたら、とスタッフから怒られました」
この映画で小林正樹監督に認めら、「人間の条件」の主役に抜擢されたのだ。
2人のご冥福を祈る。
(堤 哲)