2021年3月11日
駆け出し記者の思い出を文芸誌に連載中の取違孝昭さん(75歳)



社会部旧友・取違孝昭さん(70年入社)が「ヨコハマ文芸」第5号(2021年3月発行)に「駆け出し記者だったころ」第2回ハマのメリーさん列伝を発表している。第4号の第1回は「かまくら道」。1冊500円。横浜市内の書店にある。
HPによると、「横浜文芸の会」(通称ハマブン)は横浜を拠点に活動する文芸団体で、2018年9月発足。代表世話人は芥川賞作家宮原昭夫氏で、作家やエッセイスト、詩人たち約40人が参加。取違さんも会員なのである。
「エッ、事件記者の取違チャンが文芸誌に」と、ハテナマークの人もいるかも知れないが、HPの会員紹介に著書が紹介されている。
『騙す人ダマされる人』(新潮社1995年刊)と『詐欺の心理学 : どうだます?なぜだまされる?』(講談社1996年刊)。
『騙す人ダマされる人』は新潮文庫に入っているロングセラー本だ。
警視庁捜査一課担当の事件記者が、詐欺=知能犯の捜査二課ものを2冊もモノにしているのである。
前置きはこれまでにして、「ハマのメリーさん列伝」である。
話は入社前年の1969年に起きた73歳の女性バー経営者「メリケンお浜」殺害事件から始まる。「メリケンお浜」は大正から昭和にかけてヨコハマの夜の世界で一世を風靡した。
「ジャズのお勝」「ふうてんのお時」「カミソリンのお蘭」……。
「ジャズのお勝」には、直接会って境遇を取材している。
《敗戦で境遇はがらりと変わった。
「街にアメチャンがあふれ、女たちがいっぱい流れて来た。あたしはね、米軍の下士官クラブを根城にして、彼女たちの取締りをやってたんだ。子分が5,60人もいたかな。堅気の娘や行く所のない女たちさ。みんな悲しい連中でね。タバコのラッキーストライク3箱で身を売っていた」》
「ハマのメリーさん」は、ウィキペディアに載っている。
メリーさん(本名不詳、1921年~2005年1月17日)。歌舞伎役者のように白粉を塗り、フリルのついた純白のドレスをまとっていた。
取違さんたちサツ回り仲間は「皇后陛下」と呼んでいた。後年ドキュメント映画がヒットして「ハマのメリーさん」に定着する。
あとは「ヨコハマ文芸」を手に取っていただくとして、びっくりするのは当時の毎日新聞横浜支局の取材体制である。
《入社1年間は支局の“タコ部屋”に寝泊まりするのが毎日新聞横浜支局の決まりだった。定まった出社・退社時間などなく、あえていえば24時間勤務。…
昭和初期に建てられ、戦後、進駐軍に接収されていたという建物で、タコ部屋はその4階にあった》
《そこを拠点に各署を回っていたわけだが、部屋に帰っても仕方なく、深夜まで街を徘徊し、警察署を回っていた》
多分県警キャップは、伝説の事件記者・越後喜一郎さん(2010年没72歳)だったと思う。鍛えられたんだろうな、取違チャンは。
(堤 哲)
取違さんは、元毎日新聞常務。2007年~東日印刷社長・会長。2011年~毎日新聞グループホールディングス取締役。