2025年12月3日
「戦後80年に想う」番外
「常夏記者」栗原俊雄さんのこと

「戦後80年」のワッペンを付けた、専門記者・栗原俊雄さんの記事が3日付け対社面に載った。
1943年(昭和18年)10月16日、早大戸塚球場で行われた「出陣学徒壮行早慶戦」。毎日新聞の元運動部記者・松尾俊治さん(2016年没91歳)は、慶大の一番若い新人で、ブルペン捕手だった。松尾さんは、この試合の模様を、当時の早大野球部キャプテン笠原和夫さんとともに『学徒出陣 最後の早慶戦—還らざる英霊に捧げる』(恒文社1980年刊)として出版した。
松尾さんの孫、同じ慶應義塾後輩の中野雄三郎さん(46歳)が「戦後80年」の節目に、この本の復刊に向けて運動していることを紹介した記事である。
筆者の栗原俊雄さんは、早大政経学部政治学科卒、大学院修士課程を修了して96年入社。2020年から編集局学芸部の専門記者(日本近現代史、戦後補償史)と、毎日新聞HPにある。
◇
八月ジャーナリズム 「常夏記者」の心を思う
この毎友会HPの編集責任者を長く務めた69入社高尾義彦さん(2024年没79歳)が郷里徳島新聞のコラム「勁草を知る」2022年8月15日付で、こう書いている。
——「東京大空襲」(岩波新書)の著者、早乙女勝元さんが2022年5月に90歳で亡くなった。そのあとを追うように戦争報道を続けているのが、後輩の栗原俊雄記者(55歳=当時)。「紙面が常夏です」と同僚から冷やかし気味に言われたことを前向きに受け止めて、「常夏記者」を自称し、ニュースサイトの連載も「常夏通信」と名づけた。
◇
毎日新聞のHPには、この「常夏通信」が載っていて、2019年7月25日の第1回で、栗原記者は、連載を始めるにあたって、こう書いている。
——毎年8月、新聞やメディアは戦争関係の報道が盛んになる。一方、他の時期はさほどでもない。それゆえ、こうした夏の報道は「8月ジャーナリズム」とも呼ばれる。肯定的に言われるよりも、揶揄(やゆ)されることが多い気がする。それでも私は10年以上、一年中その「8月ジャーナリズム」をやっている。人呼んで「常夏記者」。本連載では戦争にかかわる記事、「常夏通信」を書いていきたいと思う。
第1回は、仮埋葬地を歩く 東京・上野①「西郷さんの銅像周辺も“火葬場”に」で、2021年12月2日付け「その122」までが残っている。
本紙に掲載された「常夏」記事も相当数ある。
その成果は、著書にもつながっていて、国会図書館で検索、単著だけ拾ったのが以下だ。
『戦艦大和 生還者たちの証言から』(岩波新書、2007年)
『シベリア抑留 未完の悲劇』(岩波新書、2009年)
『勲章 知られざる素顔』(岩波新書、2011年)
『シベリア抑留は「過去」なのか』(岩波ブックレット、2011年)
『20世紀遺跡 帝国の記憶を歩く』(角川学芸出版、2012年)
『遺骨 戦没者三一〇万人の戦後史』(岩波新書、2015年)
『「昭和天皇実録」と戦争』(山川出版社、2015年)
『戦後補償裁判 民間人たちの終わらない「戦争」』(NHK出版新書、2016年)
『特攻 戦争と日本人』(中公新書、2015年)
『シベリア抑留 最後の帰還者 家族をつないだ52通のハガキ』(角川新書、2018年)
『東京大空襲の戦後史』(岩波新書、2022年)
『戦争の教訓 為政者は間違え、代償は庶民が払う』(実業之日本社、2022年)
『硫黄島に眠る戦没者 見捨てられた兵士たちの戦後史』(岩波書店、2023年)
『大日本いじめ帝国 戦場・学校・銃後にはびこる暴力』(中央公論新社、2025年)
『戦争と報道 「八月ジャーナリズム」は終わらない』(岩波ブックレット、2025年)
◇
この話題は、毎友会HPトピックスで「故松尾俊治さん著『最後の早慶戦』が復刊へ」と紹介した。
https://maiyukai.com/topics/20251020-2
栗原記者に本紙掲載のお礼をメールすると、「早稲田のOBとして、少しでもお役にたててとてもうれしいです。さっそく今朝、会社に高齢の男性読者から問い合わせがあり『ネットはやらないが、寄付したい』との相談があったそうです」と返って来た。
(堤 哲)