新刊紹介

2025年12月15日

大野俊著『忘れられていた日本人―フィリピン残留二世の終わらぬ戦後』

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 昨年3月に勤務先の大学を定年退官して以降、「まだやり残している仕事がある」との思いから、これまでフィリピン各地に計7回出張し、延べ4カ月くらい滞在しました。日本国内でも関東、関西、岐阜県の各地に出張し、取材を続けました。そして、やっと、ここで紹介の『忘れられていた日本人―フィリピン残留二世の終わらぬ戦後』(高文研)というタイトルの新刊本の刊行にこぎつけました。

 私が大学教員時代に出していたような学術書ではなく、このタイトルからもわかるようにノンフィクションであり、ルポルタージュです。フィリピン日系人問題のノンフィクションとしては、毎日新聞の記者時代の1991年に刊行した拙著『ハポン―フィリピン日系人の長い戦後』(第三書館)に続くものです。

 近年、この問題は「フィリピン残留日本人」問題としてクローズアップされ、テレビ・新聞などマスメディアでの報道が増え、「日本人の忘れものーフィリピンと中国の残留邦人」というドキュメンタリー映画も制作され、各地で上映されました。支援団体、国会議員、日本政府の動きも活発化して、『ハポン』の刊行時よりは一般市民に広く知られるようになりました。ただ、38年前から新聞記事にして社会に問題提起してきた私としては、過去の経緯や、多数の関係者証言を踏まえての正確な史実を十分に押さえていない議論や伝え方が乏しいのが気になっていました。

 この本では、この問題になじみのない人にも読んでもらいたいとの思いから、主語はほぼ「私」です。エモーショナル・ライティング(感情を込めた書き方)を意識し、過去40年にわたる残留二世との面談・交遊を踏まえて、彼らが戦前・戦中・戦後に経験したディープ・ストーリー(深い物語)を多々もりこみました。

 そして、無国籍、貧困、行方不明家族など、戦後80年を経ても深刻な問題を抱えるケースなど、84年前の12月8日に始まった太平洋戦争の後遺症の深さ・長さ、日本政府のこれまでの対応の鈍さ・遅さも含め、問題の背景をできるだけわかりやすく書いたつもりです。

 この4月半ばから4カ月余り私のFacebookに転載して紹介した「日刊まにら新聞」での連載記事「忘れ去られた『日本人』―フィリピン残留二世たちが生きた戦後80年」(計21回)で紹介の二世も本書に何人か登場しますが、この連載に収めきれなかった人物や問題も多々取り上げ、執筆分量は連載記事の約4倍の16万字近く、301ページになっています。

 Amazonではすでに販売開始し(12月16日から配送可)、まもなく各地の書店(たぶん大手のみ)にも並ぶはずです。ご関心のある方にはお目通し頂くと、大変うれしいです。

(大野 俊)

 (高文研刊、定価:2,400円+税、ISBN:9784874989562)