新刊紹介

2021年11月22日

京都版連載「カキナーレ」の筆者は富士山遭難で九死に一生


深谷純一さん(2014年撮影)

 「毎日新聞京都版の146回にわたる連載から、精選して再編集」と版元のコメントにあったことから、このHPで紹介してもよいのかなと思った。

 「2008年5月から月2回の掲載でスタートし、2014年7月(146回)で終了した」と筆者のあとがきにある。

 京都の私立「成安女子高校」(現在は京都産業大学付属中高校)の国語の先生をしていて、作文教育の一環で始めた「カキナーレ」ノート。その目的は「文章に書き慣れる」ためだったが、「書き慣れ」が、舌がもつれて「カキナーレ」になってしまったのだという。

 ペンネーム、ウソもOK。ノートに本音が溢れた。第1集は2001年発行、第2集は自費出版で2010年、そして今回第3集。生徒たちの作文に、筆者「カキナーレ庵主人」のコメントを初めてつけた。

 筆者深谷純一さんは、私(堤)と早大卒の同級生。在学中は一切面識がなかったが、卒業50年を記念して体育局(現競技スポーツセンター)運動部39部の同期会で「早龍会50年記念誌」を発行したとき、山岳部にいた深谷さんが貴重な体験を寄稿してくれた。

 本の筆者紹介にある「1960年11月の富士山合宿で雪崩に遭い、九死に一生を得たこと」である。

 新人部員対象の新雪期訓練の合宿で、参加者は深谷さんら1年生が11人、上級生12人の総勢23人。その2日目。9合目付近(3550m)で雪崩に巻き込まれ、5合目(2400m)まで一気に流された。高低差1千㍍余。死者4人、重軽傷者15人を出し、山岳部は活動停止に追い込まれた。

 「お母さんと叫んで、気を失った」という深谷さんだったが、雪の中から右手首が出ていたことが発見につながり、救出された。「生と死は偶然」という思いが、その後の人生観になったという。同期の新人は2人が死亡、9人も重軽傷を負った。

 深谷さんは現在、79歳。京都の自宅は「カキナーレ庵」の表札が出ている。社会福祉ボランティア団体「カキナーレ塾」を主宰し、「カキナーレ通信」の発行(年3回)や読書会・教育集会・朗読会等を実施している。

 東方出版刊、定価 1,800円+税
 ISBN:978-4-86249-420-7

(堤  哲)