元気で〜す

2024年2月19日

元中部本社代表・佐々木宏人さん ある新聞記者の歩み 33 広告主、広告代理店、編集部門・読者とのはざまに立って・・・(広告局の巻第2回) 抜粋

(インタビューはメディア研究者・校條 諭さん) 全文は
https://note.com/smenjo/n/na0b1ea0f78a4?fbclid=IwAR06KGD8B0r0AH1c6X7CB9iGneN_Idd3XOqEtR9tKBZdgRMiiz5eYo6B9Zw

 日頃世話になっている広告代理店の社員が不祥事!うちだけ広告がはずされている!賞の協賛企業が怒っている!そんなことが突然降ってくる。一方、報道記事は何事にも左右されずに書くのが当然。編集局との間で揺れながらもなんとか落とし所を見つけて売り上げを確保していくという世界。広告局3回シリーズの第2回。

目次
◆週刊新潮の白抜き広告のいきさつ
◆電通や代議士の不祥事が起きると・・・
◆北海道拓殖銀行の破綻広告
◆元日恒例の出版社広告は今・・・
◆ドコモが怒った広告デザイン賞受賞作
◆読書感想文コンクールの裏の苦労
◆中小の広告代理店が貴重な役割を果たしてきた
◆デジタル時代、零細出版社はどこに広告を出す?

◆週刊新潮の白抜き広告のいきさつ

Q.おもな新聞の1面、2面の下はたいてい書籍・雑誌広告ですが、最近、文芸誌とか総合論壇誌の広告が少なくなった感じがします。

 書籍・雑誌広告なんかは、僕が広告局にいた当時(1993~98年)を思い出すと夢のようですよ。1面か2面の下段の広告は、たとえば文芸誌はその月の「文学界」(文藝春秋社刊)、「新潮」(新潮社刊)、「群像」(講談社刊)、あと「世界」(岩波書店刊)、「中央公論」(中央公論新社刊)などの論壇誌が並んで、日本の“知性”のショーウインドウ“の趣がありました。そういう時代で、今、毎日新聞は確か1面の下の八つ切り本の広告に出るのは「新潮」だけですね。それは本当に変わりました。週刊誌も新聞への広告っていうのはどうなのかな。わずかに週刊文春、週刊新潮が目立つ感じだな。

Q.前ほどは出ないですね。週刊現代と週刊ポストも出してはいますが。なんか高齢者をメインターゲットにしているようで、昔と大分変りましたよね。

 昔は週刊新潮や週刊文春は、毎日新聞社のスキャンダルを書くんだよね。その時、2面か3面の下段は全部週刊新潮・文春の広告。そこに、毎日の社長がどうだとか、給料安いので退社相次ぐとかね、必ず社長の顔写真とパレスサイドビルの外見の写真付きで---(笑)。

 そこでうちの出版社担当の営業マンが「広告内容を変えてくれ」と頼みに行くんですよ。でも、新潮社、文藝春秋社共に「言論の自由をおっしゃってこられたの、どこでしたっけ?」(笑)。絶対直さないので「削ってけっこう、削った原稿をそのまま掲載しても良いですよ」っていう態度でしたね。そうせざるを得ませんでした。そういうことがしばしばありましたね。それで“白抜き”の不細工な広告がでるんですよ。参ったなあ。

◆電通や代議士の不祥事が起きると・・・(略)

◆北海道拓殖銀行の破綻広告

 でも今でも胸が痛い?というと大袈裟だけど、嫌な商売だなと思ったことがありました。1997(平成9)年に、“たくぎん”の愛称で親しまれていた北海道拓殖銀行が破綻するんですよ。それで拓銀が破綻広告を出すわけです。企業の“死亡広告”みたいなもんですね。それを毎日だけ抜かされてたんですよ。それで電通が「毎日だけ抜かされてますよ」って言ってくるわけ。ぼくが知ってる常務がいたんですよ。それはもう拓銀にしたら金がないんだから、そういうことをやったってしょうがないのんですけどね。

Q.拓銀の常務ですか?

 そうです。それで拓銀に行って、そのお兄さんが元毎日の役員だったこともあり、その常務に切々と訴えました。拓銀って大手都銀13行の一つで、毎日だけ抜かされても困るから、ぜひお願いしますって言ってやっと載せてもらったんだよね。言ってみれば、死肉にむらがるハイエナみたいなもんです(笑)。あれは後味悪いなー。あの当時、拓銀と山一証券があったところは“倒産通り”って言ったかな。大手町から日本橋にかけての通りです。

◆元日恒例の出版社広告は今・・・

 それはそうと、正月紙面というのは、昔のぼくたちの時は、文藝春秋、講談社、新潮社、集英社あたりが必ずその年の出版計画のラインナップの紹介などを出すわけですよね。あれが楽しみだったんだけども、だんだん出なくなったよね。今各社どうなのかな?

Q.それを比較したことがありますけども、元日号は朝日に次いで、今でも毎日にはよく載っていると思います。おっしゃった各社は全面広告を出しています。その理由は何かなと思って、媒体特性で読売や産経、東京よりも出版社は広告を載せる価値があるというふうに見られているのか、慣習なのか断定はできませんが。岩波はとにかく朝日にしか出さないですね。

 岩波は割と律儀だから毎日にはけっこう出していると思うけど。

◆ドコモが怒った広告デザイン賞受賞作

Q.広告局での強烈な印象に残る出来事はなんですか。

 毎日広告デザイン賞ってのがありますね。広告賞としては新聞社の中で一番長い歴史と権威のある賞だと思います。なにせ1931(昭和31)に作られた賞、日本で活躍した商業デザイナーの登竜門となっていた賞です。これに公募部門っていうのがあって、その公募部門に名乗りを挙げた企業(広告をつくってもらいたい企業)に関する広告デザインを公募をするわけです。新進デザイナーが応募をするわけ。普段の自社製品の広告では制約があるが、自由な発想で制作出来るわけ。その応募作の優秀なものを広告界の大御所が審査して表彰、その広告を毎日新聞に掲載するわけです。広告界ではかなりの権威を持った賞です。

 1996(平成8)年の話ですが、ぼくが広告局長の時だったと思うけど、NTTドコモの広告をデザインした作品が大賞になりました。そうしたらドコモが怒っちゃったんですよ。携帯電話、昔アンテナ立ててたじゃないですか。そのアンテナがね、刀(かたな)になってましてね。当時、心臓につける機械がありましたね、そうだ!ペースメーカー。携帯を近くに寄せると微弱電流が流れて、ペースメーカーがダメになって、体に悪影響を与えるっていうことが言われたことがありましたよね。(略)

Q.そうですね。電車の中の優先席では、それで携帯の電源を切れと・・・。その後、ガラケーもスマホも問題ないということになったようですが・・・。

 優秀賞の対象作品となった広告は一面広告(全面広告)になるんですね。そしたらドコモがカンカンに怒っちゃって。そりゃそうですよね。自分の携帯電話のアンテナのところに、凶器となる刀をつけられちゃったんですから(笑)。それでもうこの広告費を担保する金出さないって言うんですよ。困っちゃってね。それを作ったのが、ある大手化粧品会社の専属の商業デザイナーだったんだよね。それで謝りに行って、というか、お願いに行って、デザイン変えてくれって言うんだから無茶ですよね(笑)。審査員はあの時誰だっけ、それは広告界で有名な人ですよ。その人たちにも話して頭を下げに行って、丸く納めましたよ。(以下略)